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千葉地方裁判所 昭和52年(ワ)457号 判決 1985年12月26日

原告 三里塚芝山連合空港反対同盟 ほか一四五名

被告 国 ほか六名

代理人 横山茂晴 島村芳見 石川和博 西堀英夫 三上正生

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

1  原告ら

一  被告らは、各自別紙「請求金員及び共有持分目録」記載の原告らに対し、同目録記載の「請求額」欄記載の金員及び右金員に対する昭和五二年五月六日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二 被告ら

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

(一) 原告三里塚芝山連合空港反対同盟(以下、原告反対同盟という。)は、昭和四六年五月一二日ころ別紙物件目録(一)記載の鉄塔(以下、本件第一鉄塔という。)を、昭和四七年三月二七日ころ別紙物件目録(二)記載の鉄塔(以下、本件第二鉄塔という。)をそれぞれ建設していずれもその所有権を取得し、本件第二鉄塔については共有持分の総口数を一〇万口として一口金一〇〇円で原告反対同盟を除くその余の原告らに別紙(一)記載の取得時期に、同記載の口数で売渡し、原告反対同盟及びその余の原告らにおいてそれぞれ右口数に応じた共有持分権を有するに至つた。

(二) 被告近藤浩武、同渡邊剛男、同大喜多啓光、同鈴木智旦、同脇征男(以下、被告近藤らという。)は、いずれも法務省訟務局に所属していた国家公務員であり、被告新東京国際空港公団(以下、被告公団という。)は、昭和四〇年六月二日、新東京国際空港公団法により発足し、新東京国際空港(以下、本件空港という。)の設置及び管理を目的とする公共団体である。

2  (事実経過)

被告公団は、昭和五二年五月二日、本件第一及び第二鉄塔を除去するため、被告近藤らを指定代理人として被告公団を債権者、原告反対同盟を債務者とする仮処分を千葉地方裁判所へ申請(以下、本件申請という。)した。本件申請は、千葉地方裁判所民事第一部に係属し、同部は合議体で審理し、口頭弁論及び債務者審尋を行うことなく、同月四日本件申請を認容する旨の決定(以下、本件決定という。)をし、被告公団は、同月六日、本件決定を執行して本件第一及び第二鉄塔を除去した。

3  本件申請及び本件決定の違法性

(一) 被保全権利について

(1) 被保全権利の違憲性

本件申請の被保全権利は、航空法第四九条第二項に基づく妨害物除去請求権であるところ、同法には、同条項の対象となる物件については何らの補償規定も設けられていず、収用手続を経ることなしに被告公団に無償で空中利用権を付与し、土地所有権者の有する空中利用権を無償で奪う形になつているが、これは、私有財産を認め、適正な手続による適正な補償を定めた憲法第二九条、第三一条に反するものであり、航空法第四九条第二項は、違憲・無効な条項であるから、本件申請において、被告公団が主張する被保全権利は存在しないものというべきである。

すなわち、土地所有権の内容には空中利用権が含まれており、この空中利用権は区分地上権として民法第二六九条の二により登記可能で、物権として取引の客体ともなり、財産権として確立し、私法上の十全な権利保障がなされている。ところで、本件空港の設置に関して被告公団は航空法第五五条の三第一項の規定による工事実施計画の認可を運輸大臣から受け、運輸大臣は同条第二項で準用する同法第四〇条の規定により、昭和四二年一月三〇日運輸省告示第三〇号で飛行場の位置、範囲、着陸帯、進入区域、進入表面、転移表面、水平表面、供用開始の予定期日等を告示(以下、本件告示という。)した。航空法上進入表面とは、着陸帯の短辺に接続し、かつ、水平面に対し上方へ五〇分の一以上で運輸省令で定める勾配を有する平面であつて、その投影面が進入区域と一致するものをいうが、この空間は同法第四〇条の告示により、転移表面、水平表面により制限される空間とともに被告公団が専用することとなるから(同法第四九条第一ないし第三項、第一五〇条第二号)、本件告示によつて、着陸帯周辺の土地所有権者は、当該土地所有権に基づく空中利用権を一方的に奪われることになる。これは特定の飛行場の設置に伴つて個別的に対象者が確定されるから個別的形態でなされる土地収用と同視でき、進入表面等の近隣土地所有権者は空中利用権を奪われることによつて特別の犠牲を課されているものと解されるべきである。一方、憲法第二九条第三項の解釈としては、財産権の剥奪または当該財産の本来の効用を妨げることになるような侵奪は権利者の側にこれを受忍するべき理由がない限り、当然に補償を要するし、剥奪や侵奪の程度に至らない財産権の規制の場合も、当該財産が社会共同生活の調和を保つために必要とされる場合は財産権に内在する社会的拘束として補償を要しないが、他の特定の公益目的のために、当該財産権の本来の社会的効用と無関係に偶然に課せられた制限である場合には補償を必要とすると解されるが、航空法による進入表面等による制限は空中利用権の収用で権利移転の効果を伴うものであるから前者の場合に該当し、しかも、同法第五〇条に規定した補償の趣旨からすると、航空法自体が受忍限度を超えていることを予定していると解されるばかりでなく、本件空港における予測騒音コンター図に基づくと、茨城県の筑波研究学園都市付近から千葉県山武郡蓮沼村先の九十九里浜沖合までの広大な地域が騒音、振動等の被害を受けることになる。このように、本件空港による被害発生の蓋然性が明白である以上受忍限度を超えていることは争う余地がなく確定したものというべきであり、仮にそうでないとしても少なくとも後者に該当する。すなわち、本件告示によつて進入表面、水平表面等下の土地は空中利用権行使の制限を受けるが、その制限によつてもたらされる利益は一方的に飛行場設置者である被告公団に帰属するから、到底、社会共同生活の調和を保つため、近隣土地利用者の空中利用権の制限が課せられているとはいえず、航空法第四九条に基づく進入表面等の制限は、当該財産の社会的効用とは全く関係なく、公益の名の下に偶然に課せられたものにすぎない。また、飛行場の設置は、仮に公益性があるとしても、国家的全体社会の公共の必要性であり、飛行場周辺の土地利用者等との生活環境の整備、社会共同生活上の調和とは全く無関係であり、物件の設置制限も飛行場にとつての一方的必要性に過ぎず、国家社会全体の必要により私人の権利を制限剥奪するものにほかならず、憲法第二九条第二項には該当せず、同条第三項によつて補償を必要とするものといわなければならない。

以上のとおり、航空法による空中利用権の制限、剥奪は公共のために私有財産を用いることに他ならず、憲法第二九条第三項により正当な補償を要するところ、航空法第五〇条第一項は、進入表面等からの距離が一〇メートル以上のものについては、補償をなさず、また一〇メートル未満のものについても同項にいう政令が定められていないから、同法第四九条第一項第二項は、適正な手続による適正な補償を定めた憲法第二九条第三項、第三一条に違反するものである。

(2) 被保全権利の不存在

仮に、航空法第四九条第二項が憲法第二九条、第三一条に違反しないとしても、航空法第四九条第二項が通常の生活利用のための高度まで含めた空中利用権を何らの補償なく制限、剥奪するものである以上、同条項の解釈、運用においてはより制限的な規制に止めることにより空中利用権者において生ずる損失を最小限度に止めなければならない。空中利用権者に不必要な損失、特に通常考えられる高度の空中利用権の範囲での不必要な損失を生じさせる場合には、そのような同項の解釈、運用は憲法第二九条に違反するというべきである。このような観点から航空法第四九条第二項を解釈すると、当該物件についての妨害物除去請求権が発生する要件として、当該物件が空港運用を具体的に阻害し、航空の危険を具体的に生じさせるおそれが十分にある場合でなければならず、妨害物除去請求権の範囲も、同条第三項の場合と同じく当該物件の進入表面等の上に出る部分に限定されなければならない。ところで、被告公団は、昭和四七年四月二八日、運輸大臣に対して本件第一及び第二鉄塔の存在を理由に着陸地点を移動さすべく、「設置基準と異なる方式による飛行場標識の設置」の承認申請をし、同年六月二七日同大臣よりその承認を得たから右承認により本件告示は進入表面について変更されたものとなり、本件第一鉄塔は、形式的にも航空法第四九条第二項にいう妨害物件ではなくなつたのである。すなわち、被告公団は、滑走路A南側の進入灯、滑走路末端灯等の飛行場燈火を七五〇メートル内側へ移設し、ミドルマーカ、グラインドバス・アンテナも内側にずらして設置したうえ、運輸大臣から右の承認を受けたのであるから、現実に七五〇メートル内側に移設された滑走路A南側末端灯により滑走路A南側の限界が明確となり、その外側は法的には進入燈用地と化し、滑走路A南側進入表面の基点となる着陸帯短辺も法的に本件告示の場合よりも七五〇メートル北側に移動したと評価されるべきで、従つて、また、七五〇メートル北側に移転した形になる実質的進入表面が法的にも滑走路A南側の進入表面ということになり、本件仮処分においても右の実質的進入表面を基準にして航空機進入に対する具体的な航空危険の有無を認定することによりなされなければならなかつたのであり、これによれば、同法第四九条第二項による妨害物除去請求権の対象となつたのは本件第二鉄塔の上部の一部分にすぎず、本件第一鉄塔は、形式的にも全く対象にならなかつたものである。そして、実際の運航の用に供されている全国各地の空港において本件仮処分当時も現在も多数の物件が進入表面を超えているにもかかわらず除去されていないという現状からすれば、上部の一部分しか進入表面を超えていない本件第二鉄塔を除去した本件決定は、実際の運用を無視した不平等な取扱いであり、同法第四九条の趣旨以外の目的で除去を認めた違法なものといわざるを得ず、その意味で本件第二鉄塔も妨害物件に該当しなかつた。

また、航空法第四〇条で供用開始の予定期日を告示することを決定しているが、それは、空港運用の確保(航空の安全)と空中利用権との調和をはかるため、同法第四九条第一項但書において「供用開始の予定期日前に除去される物件」について設置禁止を解除し、飛行場の設置者に妨害物除去請求権を付与することなく、供用開始の予定期日前までの空中利用権の行使を認める趣旨によるものであるところ、本件告示による供用開始の予定期日であつた昭和四六年四月一日当時はもちろん本件第二鉄塔の建築時点においてすら近い将来における供用開始の目途は全くたつていなかつた。すなわち、滑走路Aの工事は、昭和四五年五月二日に開始されたものの、その時点では未だ工区内に未買収土地が残つており(この点につき特定公共事業認定による緊急裁決の申請をしたのが昭和四六年二月三日であり、千葉県土地収用委員会による緊急裁決が出されたのは、同年六月一二日である。)、滑走路A自体の工事は、昭和四七年四月一九日完了したが、その時点においてすら、第一期工事区域内に未買収土地を残し、同年八月三日、当時の被告公団総裁は、パイプライン工事の遅延(本工事は、現在でも未だ完成していないばかりでなく、工法そのものの技術的困難さ、周辺住民の安全確保の困難さから、現実的な工事完成の目途が立たず、昭和五二年になつて急拠、国鉄貨車輸送に切り換えられることになつた。)を理由に昭和四七年内開港が不可能であることを表明し、次いで同年一二月二一日には、昭和四八年三月の開港も断念して供用開始は事実上無期延期となつたもの(供用開始=開港の目途が一応たつたのは、昭和五二年一一月二六日、運輸大臣により同五三年三月三〇日開港宣言がなされてからである。)であり、論理上、工事完成の予定期日を前提とする本件告示の供用開始の予定期日は、工事完成の予定期日が変更された以上、その意味を喪失したから、同法第四九条第一項の「第四〇条の告示があつた後」という要件はこれを欠くこととなる。すなわち、右のように飛行場設置者たる被告公団が、本件告示の予定期日までに供用開始や工事完成の意思の喪失ないしその能力を欠いている場合にまで単に形式的に本件告示があつたというだけで空中利用を許さないとすると、差し当つて航空の危険を回避する必要がないにもかかわらず、不必要に諸権利を制限することになり、憲法第二九条に違反することになる。従つて、被告公団が本件第一及び第二鉄塔の除去請求権を行使するためには、運輸大臣において本件告示の予定期日に代る供用開始の予定期日を改めて公示、掲示しなければならなかつたが、運輸大臣は本件申請、決定、執行当時までに右の供用開始予定期日の公示をしなかつたから、被告公団には同法第四九条第二項に基づく除去請求権はなかつたことになる。

(3) 被保全権利の仮処分不適格性

本件申請の被保全権利である航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権は、公益上の権利であつて、実質的には公物管理の場合の監督処分、もしくは、建築基準法上の是正命令に類似した不作為義務違反によつて生じた有形的結果を是正することを命ずる行政処分権限を意味し、私的利益の保護を目的とする制度である仮処分には適さず、行政手続によつてのみ実現可能な性質のものであるから、本件決定は仮処分制度を逸脱した裁判所による違法な行政処分である。

(二) 保全の必要性について

本件決定のような断行の仮処分は、債権者に仮の満足を与える一方で、債務者に大きな不利益を与えるおそれがあるので他の種類の仮処分と異なり、より高度の保全の必要性、すなわち、債権者の被る損害が著しいことが要求される。したがつて、本件申請の被保全権利たる本件第一及び第二鉄塔に対する除去請求権が仮に存在するとしても、除去請求権の実質的根拠は、当該物件が空港運用を具体的に阻害する場合において航空の安全を確保することにあるから、保全の必要性を考えるにあたつても当該物件が空港運用を具体的に阻害していたか、あるいは、空港運用への阻害がさし迫つていた状況にあつたかが検討されなければならない。

ところで、本件申請及び本件決定当時、本件空港は、燃料確保、空域調整、アクセス確保、騒音対策等が未解決のまま残つていて、全く解決の目途がたつていず、国際空港としての条件を満たしていなかつたし、本件申請において被告公団が保全の必要性の事由として主張した工事の完了と羽田空港の限界による本件空港の早期開港の必要性についても、本件空港が具体的に機能しうる状態にあつたか否かが問題で、本体の工事完了だけでは不充分であり、本件空港が国際空港としての条件を十分に整備したうえで本件第一及び第二の鉄塔を除去すれば、航空危険の排除として十分で、直ちに本件決定のような断行の仮処分をしなければ実害が発生するものではなかつた。一方、本件第一及び第二の鉄塔は、被告公団及び被告国の違法・不当な空港建設に反対の象徴として原告らのみならず、パイプライン、燃料鉄道輸送沿線住民、騒音対策に疑念をもつ住民、原告反対同盟の闘いに共感する労働者、学生、市民の精神的な拠り所であつたのに本件申請の許容によつていずれも除去され、原告らの成田空港反対という憲法上当然認められる権利主張や運動に損失を来たし、そのために生じた損害は本件申請を却下することによつてわずかに生ずるかもしれない被告公団の損害を超えており、保全の必要性は存在しなかつた。

(三) 本件第二鉄塔の共有者の権利妨害について

本件第二鉄塔は、原告反対同盟のみならず、その余の原告らを含む共有権者の共有であるのに本件申請及び本件決定は、その共有権利を妨害する意図で共有者の権利を、共有持分権譲渡の動機や目的の不法等、共有者の管理可能性の欠如、鉄塔の利用目的の不法等、共有持分権の稀薄化、共有者の持分権主張による鉄塔除去の阻止が権利の濫用であることなどを理由として否定したが、本件申請及び本件決定の右各判示は次のとおりいずれも理由のない違法なもので、原告共有者らの所有権(持分権)を侵害するものである。

すなわち、原告反対同盟を除く、その余の原告らは、原告反対同盟の運動目的に共嗚して本件第二鉄塔の共有持分権者になつたが、もともと、本件第二鉄塔は、空港建設に反対するすべての人びとの抵抗の象徴として建設されたもので、家屋等の建造物のように実際の実用目的を有するものではなく、建設当時から空港建設に反対する人びとの共有にすることを予定していたのであつて、権利の譲渡には、その譲渡意思が存在すればよく、権利の譲渡の動機、目的は、権利譲渡の有効性とは全く関係のない事柄であり、また、共有者の管理可能性についても、近代民法は、所有と占有を分離し、共有においても、用益、管理関係についての規定を置いているところであるから、共有者が必ずしもすべて管理可能性を有する必要はない。仮に、管理可能性が問題になるとしても、第二鉄塔共有者らの三分の一は、千葉県成田市もしくは同県山武郡に居住するものであり、また半数以上は東京都ないしその周辺に在住しており、本件第二鉄塔の管理は、充分可能である。そして、前記のとおり、本件空港建設に反対するすべての人びとの抵抗の象徴として建設された本件第二鉄塔は、そもそも、単なる実用目的を有する建造物とは異なるもので、その利用目的によつて共有権を否定することは許されない。また、共有持分権の稀薄化についても、本来、鉄塔の価値は、文化的、社会的な意味にその本質があり、金銭的な価格そのもので判断すべきではないが、本件第二鉄塔は、金銭的に評価しても一〇〇〇万円は下らないものであり、昨今におけるマンションの敷地等の持分権の割合に比較しても、原告共有者らの持分が無視できる程稀薄化したものでないことは明らかである。更に、権利の濫用の点についても、運輸大臣が本件告示の予定期日に代る供用開始の予定期日を改めて公告、掲示しなかつたから本件第二鉄塔の建設は航空法第四九条第一項に違反せず、従つて同法第一五〇条第二号に該当するとして処罰されることもないから共有者の持分権主張が権利の濫用ということはできない。

(四) 本件決定の違法について

(1) 本件決定の主文の違法

本件決定の主文は、「千葉地方裁判所執行官は債権者の申立てにより別紙物件目録記載の物件を仮に適当な方法で除去することができる」というもので、右にいう別紙物件目録記載の物件とは本件第一及び第二鉄塔を指すが、この主文には債務名義たる仮処分命令はなく、債務者の履行期限を付さない授権決定的な主文しかなく、このような主文は、民事訴訟法(旧法)第七三三条に反して債務名義なき執行処分を仮処分命令の名においてしたもので、この点において、既に、本件決定は、違法であるばかりでなく、同法(旧法)第七三五条の必要的債務者審尋の規定を無視している点においても違法である。

(2) 本件決定手続の違法

本件決定は、債務者、原告反対同盟訴訟代理人らが昭和五二年四月二八日上申書を千葉地方裁判所に差し出し、慎重な審理と債務者側からの事情を十分に聴取するように申し入れていたにもかかわらず、口頭弁論も債務者審尋も一切なされることなく保証も立てさせずに出されたものである。本件決定のように授権決定的な部分を含む仮処分においては原則として口頭弁論を経ることを要するのであり、民事訴訟法(旧法)第七三五条との関係から少なくとも審尋は行なわれるべきであるのに、それを避けなければならない事情、例えば、時間的に切迫しているとか、審尋をした場合に目的達成が不可能になるといつた事由はなかつたのである。すなわち、本件申請時には開港予定期日が具体化されておらず、債務者審尋に要する時間もごくわずかなものであつたからその時間的切迫性はなかつたし、目的達成が不可能となる点についても鉄塔の要塞化によつて本件第一及び第二鉄塔の除去が不可能になることはありえず、本件第一及び第二の鉄塔の補強工事も本件申請とは関係なく進行していたのである。

4  被告らの責任

(一) 被告公団の指定代理人らは、被告公団の代表者と共謀の上、被保全権利の違憲性と不存在、更には保全の必要性の欠如を知悉し、しかも原告反対同盟以外のその余の原告らの本件第二鉄塔に対する共有権を妨害する意図のもとに、債権者としての主張及び疎明資料を作出して仮処分決定を騙取するべく本件申請をし、合議体で審理を担当した裁判官らも、共謀の上、前記のとおり、被保全権利の違憲性と不存在、更には保全の必要性の欠如を知悉しながら、原告反対同盟から右の点を指摘されるのをおそれて、本件仮処分申請の債務者反対同盟の訴訟代理人になろうとする弁護士の口頭弁論の開始ないし審尋要請の上申書を無視して債務者審尋すら行わずに本件申請を認容して本件決定をし、その結果、本件第一及び第二の鉄塔が除去された。

(二) 被告公団の本件申請の指定代理人及び本件決定裁判官らは、公権力の行使にあたる国家公務員であり、前記の違法な本件申請ないし本件決定をなしてその職務を執行するにあたり不法行為をなしたものであるから、被告公団及び被告国は、いずれも国家賠償法第一条に基づき、被告指定代理人らは、いずれも民法第七〇九条に基づき原告らの被つた損害を賠償する責任があり、右各賠償責任は、共同不法行為責任の関係にある。

5  損害

(一) 本件第一及び第二鉄塔は、空港の建設に反対する全国の支援者からのカンパ活動を中心にして建設されたが、これを金銭に換算すると昭和五二年三月三一日時点における人件費を除く本件第一鉄塔の価額は、少なくとも八三万五八六円であり、本件第二鉄塔のそれも、六二四万九一二五円を下らず、これに人件費を加えると、本件第一鉄塔の価額は少なくとも二〇〇万円であり、本件第二鉄塔のそれも一、〇〇〇万円は下らない。そして、本件第一及び第二の鉄塔は、被告公団及び被告国の違法、不当な空港建設に対する反対の象徴たる正当防衛的な正義の鉄塔であり、その共有持分の価値は財産的評価によつてのみ評価されつくされるべき性質のものではないが、本件違法な仮処分執行によつて、本件第一及び第二鉄塔が破壊されたことにより被つた損害を金銭評価すると、原告反対同盟を除く本件第二鉄塔の共有者たる原告らの財産的、精神的損害は、一律各一〇万円、原告反対同盟のそれは、一、〇〇〇万円を下らない。

(二) 原告らは、本件訴訟を別紙当事者目録記載の弁護士に委任し、その報酬として請求額の一割五分の支払を約した。

6  結び

よつて、原告らは、被告ら各自に対して「別紙請求金員及び共有持分目録」記載の金員及び右金員に対する本件第一及び第二鉄塔が撤去されて損害が発生した昭和五二年五月六日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら全員)

1(一)  請求原因1の(一)の事実中、原告反対同盟が原告主張の日ごろ本件第一及び第二鉄塔を建設してその所有権を取得したことは認めるが、その余の事実は、否認する。

(二)  同(二)の事実は、被告公団の設立年月日を除いて認める。被告公団が設立されたのは昭和四一年七月三〇日である。

2  同2の事実は認める。

3(一)  同3の(一)の(1)の事実の中、本件申請の被保全権利が航空法第四九条第二項に基づく妨害物除去請求権であること、同条項の対象物件について補償規定が存しないこと、本件空港の設置に関して被告公団は、航空法第五五条の三第一項の規定による工事実施計画の認可を運輸大臣から受け、運輸大臣は、同条第二項で準用する同法第四〇条の規定により、本件告示をしたこと、航空法上進入表面とは、着陸帯の短辺に接続し、かつ、水平面に対し上方へ五〇分の一以上で運輸省令で定める勾配を有する平面であつて、その投影面が進入区域と一致すること、航空法第五〇条第一項は、進入表面等からの距離が一〇メートル以上のものについては補償をしていないことは認めるが、その余は争う。

(二)  同(2)の事実中、被告公団が運輸大臣に対し、原告ら主張の承認申請をし、原告ら主張の日に同大臣の承認を得たこと、被告公団は、滑走路A南側の進入灯、滑走路末端灯等の飛行場燈火を七五〇メートル内側に移設し、ミドルマーカ・グラインドバスアンテナも内側にずらして設置したうえ、運輸大臣から右の承認を受けたこと、航空法第四〇条で供用開始の予定期日を告示することを法定していること、本件告示による供用開始の予定期日が昭和四六年四月一日であつたことは認めるが、航空法第四〇条で供用開始の予定期日の告示を法定している理由、滑走路Aの工事開始及び終了時期、未買収土地の存在、緊急裁決の申請と千葉県土地収用委員会による緊急裁決を除く、その余は否認ないし争う。

(三)  同(3)の事実中、本件申請の被保全権利である航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権が公益上の権利であることは認めるが、その余は争う。

(四)  同3(二)の事実中、本件決定のような断行の仮処分が債権者に仮の満足を与える一方で、債務者に大きな不利益を与えるおそれがあるので他の種類の仮処分と異なり、より高度な保全の必要性、債権者の被る損害が著しいことが要求されることは認めるが、その余は争う。

(五)  同3(三)の事実中、本件申請及び本件決定が共有者の権利を共有持分権譲渡の動機や目的の不法等、共有者の管理可能性の欠如、鉄塔の利用目的の不法等、共有持分権の稀薄化、共有者の持分権主張による鉄塔除去の阻止が権利の濫用であることなどを理由として否定したこと、近代民法が所有と占有を分離し、共有においても用益、管理関係について規定していることは認めるが、その余は否認する。

(六)(1)  同3(四)(1)の事実中、本件決定の主文が原告主張のとおりであり、主文にいう別紙物件目録記載の物件とは本件第一及び第二鉄塔を指すことは認めるが、その余は争う。

(2) 同(2)の事実中、本件仮処分の債務者原告反対同盟の訴訟代理人らが昭和五二年四月二八日上申書を千葉地方裁判所に差し出し、慎重な審理と債務者側からの事情を十分に聴取するよう申し入れたこと、本件決定が口頭弁論も債務者審尋も一切なされることなく保証も立てさせずに出されたものであとことは認めるが、その余は争う。

4  同4(一)の事実中、被告公団の指定代理人らが本件申請をしたこと、合議体で審理を担当した裁判官らが本件申請を認容して本件決定をし、その結果、本件第一及び第二の鉄塔が除去されたことは認めるが、その余は争う。

5  同4の(二)事実中、被告公団の本件申請の指定代理人及び本件決定裁判官らが公権力の行使にあたる国家公務員であることは認めるが、その余は争う。

6  同5(一)の事実は争う。同(二)の事実は不知。

三  被告らの主張

1  被告ら全員

(一) 本件第二鉄塔の共有化について

(1) 本件第一及び第二鉄塔は、いずれも権利能力なき社団である原告反対同盟において、その結成の目的である空港建設反対のため、原告反対同盟員から徴収した会費及び原告反対同盟員または支援者から受けた寄附金を資金とし、かつ、原告反対同盟員らの労力奉仕によつて建設されたものである。したがつて、これらは原告反対同盟の資産を構成し、その所有権は原告反対同盟員に総有的に帰属するものである。

(2) 原告反対同盟は、本件第一及び第二鉄塔の除去について、被告公団が将来その除去の強制執行を行うであろうことを予測し、本件第二鉄塔建設直後の昭和四七年六月ころからいわゆる一〇万人共有化運動ないし共有化運動なるものを行ない、全国から多数の共有者を募り、あたかも本件第二鉄塔が多数の者の共有に属しているとの態を装うことを画策し、実施した。

共有化運動なるものは、いわゆる共有者多数の住所氏名を不完全な形で本件第二鉄塔に掲示することにより、訴訟提起の際等においてこれを調査特定させる負担を被告公団に負わせ、被告公団にとつて手痛い打撃を与えるためであり、また、本件第二鉄塔除去の強制執行の現場で、手に共有札の一枚を掲げ、本件第二鉄塔に掲げられた同じ名の札を指しながら効果的に抵抗の意思を表現できるためのものであつて、被告公団が予定していた本件第二鉄塔の除去を求める訴訟及びその執行手続を妨害する目的のものであつたことは明らかである。

次に、いわゆる一〇万人共有化運動なるものも、「公団は法的にすべての共有者を残らず相手として仮処分を起こしてこなければならない」という前提のもとに、本件第二鉄塔除去の法律的手続を複雑にして本件第二鉄塔除去を困難ならしめようとするものであつて、原告反対同盟にはこれにより本件第二鉄塔に対する管理支配権までも移転する意思はなく、本件第二鉄塔は依然として原告反対同盟の支配占有下にあり、他方共有者と称する者も、原告反対同盟の運動目的に共嗚し、その手段として共有名義人となつただけで、右運動目的を離れて本件第二鉄塔の共有者となるという意思がないことは明らかであり、また、所有権(持分権)の重要な要素である管理支配権を取得する意思や、その経済的価値を把握しようとする意思にも欠けるものである。現に共有者と称する者の中には、遠隔地に居住していて本件第二鉄塔を管理することが事実上不可能な者も少なくない。また、本件第二鉄塔は社会経済的にみて通常多数者の同時的な利用の対象とはなりにくい物であり、共有者となる者も通常の利用を予定しているものでないことは明らかである。なお、一〇万人共有化ということになれば、実質的な意味での所有権(持分権)の移転の観念は稀薄化し、それぞれの持分権の価値は無視できる程極微化するというべきであるから、一〇万人共有化運動自体その当事者間に実質的な所有権(持分権)移転の意思を欠く証左というべきである。したがつて、一〇万人共有化運動は、所有権移転の意思を欠くにもかかわらず、外形的にはその意思があるかのように装い、共有持分権譲渡の意思を表示したものというべきであるから、右持分権譲渡の意思表示は通謀虚偽表示に該当し、無効である。この場合、譲渡代金は本件第二鉄塔持分権譲渡に名を借りた資金カンパに過ぎないものとみるべきである。

(3) 仮に、本件第二鉄塔持分権の譲渡が通謀虚偽表示に当らないとしても、共有者が右持分権を取得したと主張して本件第二鉄塔の除去を阻止することは、権利の濫用に該当し、許されない。すなわち、原告反対同盟は、法律によつて制限表面の上に出る高さの障害物件を設置することが禁止(航空法第四九条第一項)されており、それに違反すれば処罰(同法第一五〇条第二号)されることを知りながら、本件空港開港実力阻止の手段として敢えて本件第二鉄塔を設置したものであるから、その動機及び目的において不法であり、また、共有者は右の事情を十分に知りながら、被告公団に対する害意をもつて本件第二鉄塔の持分権を取得したものであり、原告反対同盟とともに法律によつてその存続を禁止されている本件第二鉄塔を、法律関係を複雑化することによつて引き続きその存続を図ろうとするものであるから、これもまたその動機及び目的において不法であるということができる。しかも、共有者自身もまた本件第二鉄塔の持分権を取得したとしても、それによつて本件第二鉄塔の除去義務を被告公団に対して負担するに至つたものであり、被告公団に対し、本件第二鉄塔の存続を主張できる法律的立場にはない。また、一〇万人共有化運動によつて取得した共有者の本件第二鉄塔の持分権の価値は微少なものであることは、前述したとおりであつてこのような事情のもとにおいて、共有者がその持分権を主張して本件第二鉄塔の除去に反対し、本件空港の開港という大いなる公益の実現を阻むことは権利の濫用に該当し、許されない。

(二) 被保全権利の違憲性について

一般に財産権の行使は無制限に許されるものではなく、財産権を行使するに際してはこれを濫用することは許されず、国民はこれを公共の福祉に反しないように利用する責任を負うものとされているのであり、また、財産権の行使の結果が公共の福祉に合致しない場合は、その限りにおいて、かつ、一般的に法律によつてその行使の自由に規制を加えることが憲法上容認されており、これらの規制は、財産権行使の自由に対する規制であつて、憲法第二九条第三項に規定する使用財産を「公共のために用いる」ものではないから、形式的には憲法上の補償を要する場合にあたらないことは明らかであるが、これらの規制が一般に国民が負う公共の福祉に反しないよう利用する責任を果すために受忍すべき限度を超えているときは、実質的に判断して憲法上の補償が必要とされる場合があるにすぎない。航空法第四九条第一項、第二項の規定による規制は公共用飛行場における航空機の航行の安全を確保するために、その支配する財産に関し、それに基因する公共の安全に対する侵害を防止する責務を果すについて当然に受忍すべき制限を定めたものであつて、特定の人に対し特別に財産上の犠牲を強いるものではないから、右の規制は憲法上補償を要する規制には当らない。

したがつて、航空法第四九条第二項が憲法第二九条、第三一条に違反するものでないことは明らかである。

なお、原告らの主張する空中利用権なる概念は未だ学説、判例上全く確立されていないものであつて、原告らの独自の見解であり失当である。

また、原告らは航空法第五〇条第一項にいう政令がいまだ制定されていないと主張するが、昭和五一年政令第三一四号の改正により航空法施行令(昭和二七年政令第四二一号)に第四条の四が追加され、同条において、「補償は金銭をもつてするものとする。ただし、当事者間の協議によりこれと異なる補償の方法を定めたときは、この限りでない。」旨の第四条の二の規定が準用されているから、右の政令が制定されていないことを理由に違憲をいう原告の主張は、その前提において失当たるを免れない。

(三) 被保全権利の不存在について

原告らは、被告公団が運輸大臣から「設置基準と異なる方式による飛行場標識の設置」の承認を得たことにより、本件第一及び第二鉄塔は妨害物件ではなくなつたと主張するが、以下に述べるとおり失当である。

本件空港においては、主滑走路(滑走路A)の長さを四、〇〇〇メートルとしたものであるが、右四、〇〇〇メートル主滑走路(以下、適宜滑走路Aないし四、〇〇〇メートル滑走路という。)南側の進入燈(航空燈火)についてはその用地の一部が未だ買収できないため、航空法施行規則第七九条第二項の規定に基づき、運輸大臣の承認を受けて臨時に進入燈を滑走路両側に仮設しており、当面滑走路A南側からの着陸に際しての着陸接地点を七五〇メートル内側に設けて運用することとしたが、滑走路Aに係る進入表面、転移表面は本件告示によつて確定しており、滑走路A南側の進入燈を滑走路の内側に七五〇メートル移設したからといつて、着陸帯の範囲が変わるわけではなく、右確定した進入表面及び転移表面に何らの変動を生ずるものではない。また、滑走路Aを北へ向つての離陸並びに南へ向つての離陸及び着陸については滑走路Aが四、〇〇〇メートル滑走路であることを前提として実際に航空機の運航が行なわれている。そもそも、航空法第二条第五項に「この法律において「着陸帯」とは特定の方向に向つて行う航空機の離着または着陸の用に供するため設けられる飛行場内の矩形部分をいう」とあることからも明らかなように、進入表面及び転移表面は滑走路に進入する航空機の安全を確保するためばかりでなく、滑走路から離陸する航空機の安全をも確保するために設けられたものであつて、滑走路Aを滑走路北側から南側へ向つての離陸について四、〇〇〇メートル滑走路として現に運用している本件空港においては、離陸する航空機の安全を確保するため、四、〇〇〇メートル滑走路に対応する進入表面、転移表面を確保する必要があり、当該進入表面の上に出る本件第一及び第二鉄塔が妨害物件であることには何ら変りがない。

また、航空法は、第四九条第一項本文において、第四〇条の告示の時を公用制限開始の基準日としているところ、供用開始予定期日が経過したのに、いまだ工事が完成せず、あるいは、供用が開始されない場合、供用開始予定日について如何なる措置をとるべきかに関する規定を設けていないが、このことは、同法が、右のような場合が生じても告示の効力、したがつて、告示を基準として生ずる公用制限の効力に何ら影響を及ぼすものでないことを当然の前提としているからである。公用制限開始の時期を明定する必要があることは明白で、これを告示の時とすることには制度としての合理性があり、供用開始予定期日が経過した後においても、同法第四九条第一項但書前段の例外規定は当然適用されるのであるから、公益性と私権との調整は十分図られるのであつて、憲法第二九条に違反するものではなく、原告らの主張は全く理由がない。

(四) 被保全権利の仮処分不適格性について

原告らは、航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権は公益上の権利であつて、私的利益の保護を目的とする制度である仮処分には適しない旨を主張するが、公益上の権利であるからといつて、民事上の強制執行制度によつて、その実現を図ることができないものではなく、本件の場合には被告公団は行政代執行法第二条による代執行の主体たる行政庁ではないから航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権については代執行できず、右請求権が民事上の強制執行方法である仮処分の被保全権利になりうることは当然であり、この点についての原告らの主張は民事執行によつて実現しうる権利は私法上の権利に限定されるとの誤つた見解を前提とするものであつて失当である。

(五) 保全の必要性について

被告公団は、本件申請に際し、本件空港の工事が既に完了しており、航空輸送の円滑化をはかるためには一日も早くその供用を開始しなければならない必要性が切迫していたし、開港の遅延により著しい、かつ、回復しがたい損害を受けるおそれがあつた。一方、本件第一及び第二鉄塔はそもそもこれを設置すること自体、航空法第四九条第一項の規定に違反して許されないものであるのみならず、原告反対同盟は、専ら本件空港の開港を阻止する目的で本件第一及び第二鉄塔を建設してこれを所有しているもので、これは、本件第一及び第二鉄塔についての使用収益等、通常の経済的利益を目的とするものではないから、仮処分によつてこれを除去しても原告反対同盟が法的保護に値する回復不可能な損害を受けるとは到底いえない。

(六) 本件決定の主文の違法について

妨害物除去の仮処分命令においては、まず、債務者に作為を命ずるとともに、一定期間内に履行しなければ債権者またはその委任にかかる第三者においてこれをなし得る旨宣言するのが通常ではあるが、民事訴訟法第七五八条は、仮処分の内容について若干の具体的方法を例示するほかは、仮処分命令の内容を決定するについての自由裁量権を裁判所に与えているのであり、仮処分命令において通常作為命令が付されるのは、債務者が任意に履行することを期待できるからであつて、本件のように債務者が任意に本件第一及び第二鉄塔を除去することを期待しうるような事情が全く存しない場合には作為命令を付することが必要不可欠とはいえず、簡明率直に執行命令だけで足りるのである。そして、また、仮処分はその保全的性格と多様性のゆえに強制執行法をそのまま適用できず、本件決定のように執行命令を内容とする仮処分を発するのに審尋を経なくとも何ら民事訴訟法(旧法)第七三五条の必要的債務者審尋の規定を無視したことにはならない。

(七) 本件決定手続の違法について

本件申請においては、被保全権利の存在及び仮処分の必要性についての債権者たる被告公団の疎明は十分であるばかりでなく、そもそも本件第一及び第二鉄塔を設置すること自体が法令に違反して許されないものであり、また、前記のとおり債務者たる原告反対同盟は、専ら本件空港の開港を阻止する目的で本件第一及び第二鉄塔を建設所有したもので、本件第一及び第二鉄塔が通常の経済的利益を目的として使用収益するためのものではないから本件決定によつて債務者たる原告反対同盟が法的保護に値する回復不可能な損害を受けるとはいえず、債務者たる原告反対同盟が従来、本件第一及び第二鉄塔除去の強制執行が行なわれる場合には、本件第一及び第二鉄塔に黒山のように原告反対同盟に所属する者を登らせてこれを阻止する旨宣明し、本件申請当時も本件第二鉄塔中段に「決死隊」のたてこもる鉄箱を増設するなどして本件第二鉄塔の要塞化工事を進めていたのであつて、このような債務者たる原告反対同盟の言動からすると、債務者たる原告反対同盟が本件第一及び第二鉄塔の除去を任意に履行することは全く考えられず、かえつて、仮処分の執行の妨害を防止するために密行性を重視すべき事案であつたのだから、本件決定が口頭弁論も債務者審尋も経ずになされたからといつて、これを非難すべき理由はない。

2  被告近藤らの主張

国家賠償法第一条第一項の公権力の行使の範囲については、国または公共団体の作用のうち純然たる私経済作用と同法第二条第一項によつて救済される営造物の設置、管理作用を除く、すべての作用を含むものと解するべきであり、被告近藤らは国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律第七条の規定に基づいて被告公団の代理人に指定され、本件申請等を行なつたものであつて、これらの作為は、営造物の設置、管理でもなければ、純然たる私経済作用でもなく、被告近藤らは、公権力の行使にあたる国家公務員として、その職務を行なうについてこれらの行為をしたのである。ところで、一般的に公権力の行使にあたる国または公共団体の公務員が職務を行なうについて故意または過失によつて違法に他人に損害を与えた場合は、国または公共団体がその被害者に対し、国家賠償法第一条第一項により賠償の責に任ずるのであつて、公務員個人としてはその故意過失を問わず国家賠償法上も民法上もその責任を負わないのであつて、被告近藤らとしては原告らに対し損害を賠償するべき責任を負う余地がない。

第三証拠 <略>

理由

第一本件当事者及び本件鉄塔除去に至る経過について

原告反対同盟が昭和四六年五月一二日ころ本件第一鉄塔を、昭和四七年三月二七日ころ本件第二鉄塔を建設してその所有権を取得したこと、被告近藤らはいずれも法務省訟務局に所属する国家公務員であり、被告公団が新東京国際空港公団法により発足し、本件空港の設置及び管理を目的とする公共団体であること、被告公団は、昭和五二年五月二日、本件第一及び第二鉄塔を除去するため、被告近藤らを指定代理人として本件申請をし、本件申請は、千葉地方裁判所民事第一部に係属し、同部は合議体で審理し、口頭弁論及び債務者審尋を行うことなく、同月四日、本件決定をし、被告公団は、同月六日本件決定を執行して本件第一及び第二鉄塔を除去したことは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば被告公団は、昭和四一年七月三〇日に設立されたことが認められる。

第二本件第二鉄塔共有化の効力について

原告らは、本件第二鉄塔につき原告反対同盟を除く、その余の原告らに別紙(一)記載の取得時期に同記載の口数で売渡し、原告反対同盟及びその余の原告においてそれぞれ右口数に応じた共有持分権を有するに至つたとし、被告らは、被告公団の方で将来、本件第一及び第二鉄塔の除去の強制執行を行なうことを予測した原告反対同盟が、本件第二鉄塔建設直後の昭和四七年ごろからいわゆる一〇万人共有化運動ないし共有札運動なるものを行ない、全国から多数の共有者を募り、あたかも本件第二鉄塔が多数の共有に属しているとの態を装うことを画策、実施したもので本件第二鉄塔の共有化は、処罰されることを知りながら本件空港開港実力阻止の手段として敢えて設置した本件第二鉄塔につき被告公団の方で除去を求めて提起する訴訟やその執行手続を妨害する目的に出たものないしは法律関係を複雑化することによつて引き続き存続をはかろうとするものであるから、動機、目的において不法であり、その管理支配権を移転、取得する意思や経済的価値を把握しようとする意思に欠け、しかも、一〇万人共有化運動によつて取得した共有者の持分権の価値は、無視できる程極微化するというべきであるから実質的な持分権移転の意思も欠く等として本件第二鉄塔の共有化につき、通謀虚偽表示ないし権利を濫用するものとして無効であると主張するので、まず、この点について判断する。

一  <証拠略>によれば、次の事実が認められる。

1  原告反対同盟は、本件空港建設にあくまで反対し現地における政府、被告公団の介入を実力阻止をもつて一切排除するという闘争方針をもつ団体(権利能力なき社団)であるが、本件第一及び第二鉄塔を建設すれば、本件空港の四、〇〇〇メートル滑走路の南側部分の利用を妨げて航空機の離着陸に支障をきたすことになり、航空法第四九条に違反し同法第一五〇条の罰則の適用があることを知りながら、敢えて、本件空港の開港を阻む目的で同滑走路の南側部分の進入表面上に突出する本件第一及び第二鉄塔を建築し、本件第二鉄塔については更に昭和五二年四月二三日から同月二七日にかけて、箱型のゴンドラを取りつけたり、鉄塔の周囲を杉丸太やベニヤ板で囲むなどの補強工事を施すとともに被告公団からの再三にわたる建設作業の中止や本件第一及び第二鉄塔の除去の請求を無視し、かえつて昭和四七年四月ごろから本件第一及び第二鉄塔撤去の仮処分申請等を予想し、三次にわたつて、いわゆる「岩山大鉄塔一〇万人共有化運動」(以下、一〇万人共有化運動ともいう。)を開始した。これは、本件第二鉄塔の所有権を一〇万口の共有持分に分割し、一口一〇〇円を醵出することにより誰でもその醵出口数に応じた鉄塔共有者になり鉄塔問題の当事者となることができるという内容の運動で、被告公団が鉄塔を除去する目的で仮処分申請等をした際の裁判闘争の一環として多数の共有者を作出することにより訴訟関係を複雑化させ、ひいては本件第二鉄塔の除去を困難にさせて本件空港の開港を阻止することを専ら目的とし、原告反対同盟を除くその余の原告らも、右のような一〇万人共有化運動の趣旨に賛同して本件第二鉄塔が航空法第四九条に違反する物件でそれを留置しても同法第一五〇条により、処罰されることを知りながら、別紙(一)記載の取得時期に、同記載の口数に応じて本件第二鉄塔の共有持分権を買受けたものである。

2  一方、東京国際空港(以下、羽田空港という。)の能力の限界が懸念され、航空機の超大型化、超高音速化時代の到来が必至と予想されるようになつた昭和三〇年代後半から政府をはじめ航空関係者の間で本件空港の必要性が強く認識されはじめ、国際民間航空機関(ICAO)の定期航空会社を対象とした統計によると、昭和四四年一月二四日現在における世界の航空輸送実績は別表1のとおりであり、また、我が国の航空輸送実績は別表2のとおりであつて、世界の航空輸送実績は、昭和四二年において旅客及び貨物、郵便物の総計で昭和三二年の約四倍、同年から昭和四二年の一〇年間の年平均伸び率は旅客一四・五パーセント、貨物及び郵便物一八・六パーセント、総計一五・四パーセントで、我が国の航空輸送実績も昭和四二年で昭和三二年の約一五倍、同年から昭和四二年の一〇年間の平均伸び率は旅客三一・四パーセント、貨物及び郵便物三四・一パーセント、総計三一・五パーセントという高率であり、また羽田空港における国際線定期便発着回数の推移も別表3のとおりで、航空輸送は質的にも航空機材の大型化、高速化が進展して急速な発達をみせるようになつていた。ところで、昭和五二年当時、日本航空株式会社が運航をしていたモスクワ線、ロスアンゼルス線には、それぞれ、マクドネルダグラスDC―八―六二型機、ボーイング七四七―二〇〇型機が使用されていたが、これらの路線及び機材にとつて可及的有償塔載量を確保しようとすれば、真夏高温時で四、〇〇〇メートル程度の主滑走路が必要であつたが、羽田空港には三、〇〇〇メートル程度の主滑走路しかなく、その他、同空港の施設処理能力が限界に達するのもごく近い時期になるという見通しであつた。

3  このような状況のもとで、政府は、昭和三七年度予算から新空港調査費を計上して空港適地の調査、検討を開始し、最終的には航空管制、気象条件、工事上の問題、都心との連絡などの立地条件その他を考慮して昭和四一年七月四日の閣議で新東京国際空港の位置を国有財産である千葉県所在の下総御料牧場及び同県有地を最大限に活用して買収民有地をできるだけ小範囲にとどめることができる千葉県成田市三里塚町を中心とする地区とし、新空港の敷地面積は一、〇六〇ヘクタール程度とすることを決定した。

4  そして、昭和四一年一二月一二日、運輸大臣から被告公団総裁に対し基本計画が指示され、被告公団は、右基本計画を受けて工事実施計画を作成し、同月一三日運輸大臣に対し、工事実施計画の認可申請をして、昭和四二年一月二三日右認可を受けたが、右計画を実施する過程で飛行場の機能の向上等のため、施設の設置、規模及び形状を変更する必要が生ずるとともに計画実施の遅れ等もあつて昭和四四年一月二五日から昭和五二年三月二八日まで数回にわたつて工事実施計画の変更認可を受けた。この間、被告公団は右計画に基づいて、まず、昭和四四年九月二〇日から滑走路Aやその着陸帯Aの工事に着工し、その後、本件空港本体施設、航空保安無線施設、航空燈火の各施設の工事に着工して、昭和五二年三月三一日までに、本件空港の四、〇〇〇メートル滑走路とこれに対応する諸施設並びに航空保安施設をすべて完成した。ところが、本件第一及び第二鉄塔の存在が、飛行検査のための航空機の降下に際して危険であつたため本件空港の航空保安無線施設工事の完成検査の一環である飛行検査の障害となり、航空法第四二条に基づく運輸大臣の検査が中断されるとともに航空法第七二条に基づき本件空港に係る路線の航空機の機長に必要な経験、知識、能力を有するための慣熟飛行もできない状況に至つた。

5  他方、本件空港の航空機の運航に必要な航空燃料については、昭和五二年四月には千葉県成田市土屋から本件空港までの暫定パイプラインと茨城県鹿島港及び千葉県市原市から成田市土屋までの鉄道輸送との併用で一応確保され、本件空港開港時に出入りする航空旅客、送迎客、従業員等のいわゆる空港アクセス旅客の輸送手段も鉄道輸送として京成電鉄、国鉄総武、成田線、道路輸送として首都高速七号線、京葉道路、東関東自動車道路、湾岸道路の利用が見込まれる状況にあつた。

6  そして、羽田空港の昭和四〇年から昭和四六年までの国際線及び国内線の月別着陸回数は別表4記載のとおりで、昭和四六年には羽田空港の離発着処理能力の限界に近づいていた。そのため、羽田空港への着陸のための長時間の上空待機、運航遅延等が多く発生するに至つたことにより、昭和四四年八月には羽田空港における小型機の発着制限措置を講じ、昭和四六年八月には羽田空港におけるIFR機の発着回数が制限され、その後国際線の増便要請に対しては国内線の減便によつて充てるという措置をとつたが、国内線の減便も限界となり、昭和四八年一月には国際線の定期便の発着回数を昭和四七年一二月時点のまま凍結することを骨子とした発着調整基準が設定され、本件空港の供用開始に伴う発着調整基準が策定されるまで実施されることとなつた。ちなみに、昭和五二年四月一日から同月七日までの羽田空港における航空機の発着状況は、最大の混雑時にあたる午後五時から午後八時まではほぼ二分間に一機の割合で発着し、航空貨物も昭和四八年一〇月には羽田空港の蔵置能力をはるかに超え、航空貨物が航空機の移動区域に氾濫するに至り、このため国際線駐機上の一部が使用不能となるような状態が生じ、航空機の運航に重大な影響を及ぼす状況となり、同月二三日にはできる限り羽田空港あての貨物運送を差し控えるよう指導するとともに、貨物臨時便の運航制限を行なう措置も講じる程になつた。

7  昭和五一年三月三一日現在で本件空港の関連公共事業の投資額は、二、六七九億一、八〇〇万円となり、関連企業の投資額も昭和四九年八月末日現在で六九〇億八、六〇〇万円に上り、昭和四九年から昭和五一年にかけて運輸大臣及び被告公団に対して各方面から本件空港を早期に開港するように要請がされていた。

8  ところで、昭和四二年一月二三日、被告公団の本件空港工事実施計画に対する運輸大臣の認可は、同月三〇日運輸省告示第三〇号(本件告示)をもつて告示されたが、右告示によれば、本件空港の供用開始予定期日は、昭和四六年四月一日で、その着陸帯Aの進入表面は別紙第二図中着陸帯Aの短辺(イロ及びハニ)の各辺に接続し、それぞれ外側上方に水平面に対して五〇分の一の勾配を有する平面であつて、その投影面が進入区域(別紙第二図中イ、ロ、ヌ及びリ並びにハ、ニ、ヲ及びルの各点をそれぞれ順次に結んだ線によつて囲まれる区域)と一致するものをいうとされた。そして、滑走路Aはその南側部分の進入燈用地の一部が未買収のため進入燈を設置することが大幅に遅延する見込みとなつたので、航空法施行規則第七九条第二項の規定に基づき運輸大臣の承認を受けて、進入燈を滑走路両側に仮設し、南側の着陸接地点を臨時に七五〇メートル移設して運用することとし、進入燈を同滑走路両側に仮設し、同滑走路南側の着陸接地点を臨時に北側へ七五〇メートル移設したうえ、昭和四七年六月二七日、運輸大臣より「設置基準と異なる方式による飛行場標識の設置」の承認を受け、その結果、本件空港は、当面長さ四、〇〇〇メートルある滑走路Aの南側からの離着陸については、事実上三、二五〇メートルの滑走路長として使用せざるをえないが、同滑走路南側から北方向へ向つての離陸、同滑走路北側から南側に向つての離着陸は、長さ四、〇〇〇メートルの滑走路として使用できるものであつたので、本件告示に示された進入表面の変更はなく、本件第一鉄塔は、同滑走路南側部分の着陸帯末端より一〇三九・七四メートル、同滑走路中心線の延長線から左へ一二・七七メートルに位置し、地盤高が四一・九四メートル、高さが三〇・八二メートル、進入表面より突出する高さが一〇・九七メートルであり、本件第二鉄塔も同着陸帯末端より七五七・六〇メートル、同滑走路中心線の延長線から左へ一四・一五メートルに位置し、地盤高が三四・三六メートル、高さが六二・二六メートル、進入表面より突出する高さが四〇・四七メートルあつた。

9  被告公団は、昭和五二年五月二日、千葉地方裁判所に対し、原告反対同盟を債務者とし、航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権を被保全権利として本件第一及び第二鉄塔除去の仮処分を求める本件申請をし、同月四日、千葉地方裁判所民事第一部は、本件申請を認めて本件決定をし、同月六日本件第一及び第二鉄塔は仮に除去された。

以上のとおり認められ、(もつとも、右認定中には当事者間に争いない事実も存する。)右認定に反する<証拠略>は採用できず、他に、右認定を左右するに足る証拠はない。

二  右の認定事実によれば、原告反対同盟を除く、その余の原告らは、原告反対同盟から別紙(一)記載の取得時期に同記載の口数に応じて本件第二鉄塔の共有持分権を買受けたが、それは、専ら被告公団が鉄塔を除去する目的で仮処分申請等をした際の裁判闘争の一環として、本件第二鉄塔について多数の共有者を作出して訴訟関係を複雑化させ、本件第二鉄塔の除去を困難にして、本件空港の開港を阻止しようとしてなされたものであり、しかも、原告反対同盟及びその余の原告ら双方とも本件第二鉄塔が航空法第四九条に違反する物件でそれを留置すれば航空法第一五〇条により処罰されることもあることを知りながら、右の動機、目的のもとに敢えて本件第二鉄塔の所有権を分割してその共有持分権を売買したもので、原告らの本件第二鉄塔の共有持分権の売買は、その動機、目的において不法であり、その行為態様も羽田空港が手狭となつたため航空管制、気象条件、工事上の問題、都心との連絡などの利用上の便益、買収民有地が比較的小範囲にとどめることができるといつた諸事情を勘案して千葉県成田市三里塚町を中心とする地区に設置することにし、その建設のために既に巨費を投じた極めて公益性の高い本件空港の開港を阻止するため、法的に是認されない本件第二鉄塔の所有権を、権利としての本来的な機能を持ち得るか否か疑問視される程分割微小化して売買したものであつて、私権の社会性、公共性を唱つた民法第一条の趣旨に悖るものといわざるを得ないから法秩序の基底にある正義の観念に反し、公序良俗違反として無効といわなければならない。

もつとも、この点について被告らは、公序良俗違反の主張を明確にはしていないが、被告らの主張を忖度すると、権利濫用の主張中に、その趣旨が包含されていると解されるばかりでなく、そもそも公序良俗違反の有無は、その主張がなければ判断し得ないものではないと解するを相当とする。

そうだとすると、原告反対同盟を除く、その余の原告らは、本件第二鉄塔につきその主張する共有権を有しないことになるから、その余の点について判断するまでもなく、原告反対同盟を除くその余の原告らの本訴請求は、排斥を免れない。

第三本件申請及び本件決定の違法性の有無について

そこで、次に、本件申請及び本件決定につき、原告反対同盟が主張するような違法性があるか否かについて判断する

一  被保全権利について

1  被保全権利の違憲性をいう点について

原告反対同盟は、航空法第四九条第二項の規定は、その対象物件につき何らの補償規定も設けられていないから憲法第三一条、第二九条第三項に違反すると主張するが、憲法第二九条第二項によれば財産権の内容は公共の福祉に適合するように法律で定めることができ、航空法第四九条第二項の対象物件について同条第一項で定められた規制は、公共用飛行場に離着陸する航空機の航行の安全確保という高度な公共の利益のため一般的に一定の周辺の土地の利用について制限を行なつたもので、右制限は、公共用飛行場に離着陸する航空機の航行の安全確保という高度な公共の利益のため、これに適合するよう定められた合理的な制限であつて、このように財産権につき法律で公共の福祉に適合するように一般的に制限した結果として、個々的に財産権を制約することになることがあるとしても、それは、右のような権利の社会性、公共性の範囲の問題に属し、憲法第二九条第三項の正当な補償を要求されるものではなく、従つて、航空法第五〇条第一項が公共の用に供する飛行場の設置者は進入表面等の投影面と一致する土地のうち、進入表面等からの距離が一〇メートル未満のものに限定して同法第四九条第一項の規定による用益制限により通常生ずべき損失を当該土地の所有者その他の権原を有する者に対し、政令で定めるところにより補償しなければならないとしているのも、立法政策の問題として損失者を保護するため法律が特に、進入表面等の投影面と一致する土地のうち、空中の利用が著しく制限され、損失も著しいと考えられる進入表面等からの距離が一〇メートル未満のものに限つて、物件の除去を伴わない場合においても損失を補償しなければならないとして規定を設けたものにすぎず、また、昭和五一年政令第三一四号の改正により航空法施行令(昭和二七年政令第四二一号)に第四条の四が追加され、同条は、航空法第五〇条第一項の補償につき「補償は金銭をもつてするものとする。但し、当事者間の協議によりこれと異なる補償の方法を定めたときはこの限りでない。」とする同令第四条の二の規定を準用して補償の方法を規定しているのであるから、同法第四九条第一項第二項が原告反対同盟主張のように憲法第二九条第三項、第三一条に違反するとはいえない。

2  被保全権利の不存在をいう点について

(一) 原告反対同盟は、航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権の範囲は、同条第三項の場合と同じく当該物件の進入表面の上に出る部分に限定されなければならないところ、昭和四七年六月二七日、運輸大臣が「設置基準と異なる方式による飛行場標識の設置」を承認したことにより、本件告示による滑走路の南側部分の進入表面が北側へ七五〇メートル移動し、進入表面につき本件告示が変更されたものとなり、本件第一鉄塔は、形式的にも航空法第四九条第二項にいう妨害物件ではなくなつたし、また、本件第二鉄塔もその上部の一部分が航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権の対象になるにすぎず、実際に運航の用に供されている全国各地の空港の運用の現状からみて上部の一部分しか進入表面を超えていない本件第二鉄塔を除去した本件決定は実際の運用を無視した取扱いで、同法第四九条の趣旨以外の目的で除去を認めた違法なものといわざるを得ず、その意味で本件第二鉄塔も妨害物件に該当しなかつた。また、本件告示による供用開始の予定期日であつた昭和四六年四月一日当時はもちろん本件第二鉄塔の建築時点においてすら近い将来における供用開始の目途も全くたつていなかつたもので工事完成の予定期日が変更され、本件告示の供用開始の予定期日は、その意味を喪失したから、航空法第四九条第一項の「第四〇条の告示があつた後」という要件が欠け、被告公団には、同法第四九条第二項に基づく妨害物除去請求権がなかつたことになる旨主張する。

しかしながら、航空法第四九条第二項と同条第三項とは、規定内容を異にするばかりでなく、実質的にみても空港設置の告示の前後によつて建造物等の設置等に関する公用制限の程度を異にすることには合理性があるから、同条第二項の妨害物除去請求権の範囲を同条第三項の場合と同じく当該物件の進入表面上に出る部分に限定しなければならないいわれはなく、同法第四九条第一項の違反物件である限り、告示による進入表面等の上に突出する部分だけでなく、当該物件全部を除去できるというべきである。そして、前記の認定事実によれば、本件第一及び第二鉄塔は、いずれも本件告示後に設置されたもの(もつとも、この点については当事者間に争いがないということができる。)で、本件告示による進入表面上に突出(本件第一鉄塔は、一〇・九七メートル、本件第二鉄塔は四〇・四七メートル突出)する高さのものであるから、進入表面の上に突出する部分だけでなく、鉄塔全部が同条第二項の妨害物除去請求権の対象であつたといわなければならない。

また、前記認定のとおり、昭和四七年六月二七日運輸大臣により、「設置基準と異なる方式による飛行場標識の設置」の承認を受け、進入燈を滑走路Aの両側に仮設し、同滑走路南側の着陸接地点を臨時に北側へ七五〇メートル移設したが、同滑走路は、滑走路南側から北方向への離陸、滑走路北側から南側に向つての離着陸については、本件告示の内容どおりの運用がされ、四、〇〇〇メートル滑走路として機能し、使用されており、進入表面は航空法上航空機の着陸の安全のためばかりでなく、離陸の安全のためにも設けられていることを考慮すると、右の運輸大臣の承認によつて本件告示の進入表面が変更されたものということはできず、従つて、前記のとおり、本件第一鉄塔は、一〇・九七メートル、本件第二鉄塔に至つては四〇・四七メートルも本件告示による進入表面上に突出しており、本件第一及び第二鉄塔の除去を認めた本件決定が実際の空港の運用の現状を無視した取扱いで、同法第四九条の趣旨以外の目的からその除去を認容した何らの事跡もない。

更に、航空法第四九条が公共用飛行場について所定の物件設置または留置を制限した趣旨は、航空機の離着陸が開始される時点において、航行の安全に障害となるおそれのあるような所定物件を一切存在しない状態にまで関係個所の整備が終つていることを究極の目的とし、その方法として飛行場設置許可の段階にいち早く航行の安全の障害となるおそれのあるような物件の新設等を原則として禁止して現状を固定するとともに、既存の物件についても損失を補償し、もしくは補償せずに飛行場設置者をして逐次これを除去してゆく措置を講ずることを認めたものと解するを相当とし、たとえ、工事完成がおくれ、現実の供用開始が、その予定期日を大幅に超過したとしても、飛行場の設置計画自体が全面的に中止されるなど飛行場の設置そのものを棚上げにするといつた状況に至らない限り、依然として右の現状固定の利益と必要は存し、供用開始予定期日の定め等を伴つた現状固定の基準日としての告示の効力は、その告示が改められるなら格別、そうでない以上、現実の供用開始日の遅れによつて何ら影響を受けないと解すべきであるから、前記認定のとおり、四〇〇〇メートル滑走路や諸施設の完成が遅れ、本件空港の実際の供用開始(本件空港が昭和五三年八月三〇日に供用開始されたことは当裁判所に顕著である。)がその予定期日を大幅に超過してなされたとしても、本件告示が改められた事情のない本件においては、これをもつて、原告反対同盟の主張のように本件告示の供用開始の予定期日がその意味を喪失したとはいえず、本件告示の現状固定基準日としての効力は依然として存するというべきであるから、本件第一及び第二鉄塔つき航空法第四九条第一項に規定する「第四〇条の告示があつた後」に設置したものとの要件を欠くということはできず、被告公団に同法第四九条第二項に基づく妨害物除去請求権がないとはいえない。

3  仮処分不適格性をいう点について

原告反対同盟は、航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権が公益上の権利であつて、私的利益の保護を目的とする制度である仮処分には適さず、行政手続によつてのみ実現可能なものである旨主張するが、しかし、公益上の権利であるからといつてこれらのみで民事上の強制執行制度によつてその実現を図ることができないものではなく、航空法には同法第四九条第二項に規定する妨害物除去請求権に基づく強制執行の規定がなく、また被告公団は、行政代執行法第二条による代執行の主体たる行政庁でないことも明らかであるから、このような場合には、訴により民事上の履行請求をなし得ると解するを相当とし、その前提として保全処分を行うこともできるというべきである。

二  保全の必要性について

原告反対同盟は、本件申請は、その本件断行仮処分のさし迫つた必要のない時期になされたもので本件申請の許容によつて、原告反対同盟の成田空港反対という憲法上当然認められる権利としての主張、運動に損害を生じさせられ、その損害は、本件申請を却下することによつてわずかに生ずるかも知れない被告公団の損害を超えており、保全の必要性はなかつた旨主張し、断行の仮処分が債権者に仮の満足を与える一方で、債務者に大きな不利益を与えるおそれがあるので、他の種類の仮処分と異なり、より高度な保全の必要性、債権者の被る損害が著しいことが要求されることは、当事者間に争いないが、前記認定のとおり、羽田空港はその旅客、貨物の両部門における処理能力が限界にきており、一方、本件空港の工事実施計画に基づく開港工事は昭和五二年三月三一日までにほぼ完了したが、本件第一及び第二鉄塔の存在により本件空港の航空保安無線施設工事の完成検査の一環である飛行検査ができず、開港の必要性がきわめて高いものであるにもかかわらずそれが不可能な状況にあり、また、本件空港関連公共事業の投資額は昭和五一年三月三一日現在で二、六七九億一、八〇〇万円、空港関連企業の投資額は同四九年八月末日現在で六九〇億八、六〇〇万円と巨額にのぼつていて、本件空港の開港が遅延することにより、多大な経済的損害を生じさせることとなり、また本件申請及び本件決定当時、本件空港の航空機の燃料、アクセスの確保の目途がついていたことを合わせ考えると、本件仮処分によつて、被告公団の航空法第四九条第二項の妨害物除去請求権を保全する必要性はあつたというべきである。

三  本件仮処分決定の違法について

1  主文の違法をいう点について

原告は、本件決定の主文には債務名義たる仮処分命令がなく、債務者の履行期限を付さない授権決定的な主文しかなく、このような主文は、民事訴訟法(旧法)第七三三条に反して債務名義なき執行処分を仮処分命令の名においてしたもので違法であるばかりではなく、同法(旧法)第七三五条の必要的債務者審尋の規定を無視している点でも違法である旨主張する。しかし、本件決定の主文が「千葉地方裁判所執行官は、債権者の申立てにより別紙物件目録記載の物件を仮に適当な方法で除去することができる。」とするもので、右にいう別紙物件目録記載の物件とは本件第一及び第二鉄塔を指すことは当事者間に争いがないが、民事訴訟法第七五八条第一項によれば、裁判所は、申請の目的を達成するために必要な限度で、自由にその処分内容を定めることができるとされており、その趣旨は、仮処分債権者の申請の目的の多様性に応じて発令する仮処分の内容も異なり、一義的に定めることはできないところから、処分権主義が妥当する私権の保全という目的の範囲内で裁判所がその事案に応じて裁量により申請目的を達するに必要な処分を命ずることができるとするにあると解するを相当する。本件における前記認定の事実関係のもとでは、債務者(原告反対同盟)が鉄塔撤去の作為命令に応じて任意に本件第一及び第二鉄塔を撤去することを期待し得ないということができるからこのような場合には、仮処分の主文において、必ずしも、債務者の任意な履行を期待してなされる作為命令を発することが要求されるものではなく、債権者(被告公団)の申請の目的を達成するに必要な限度で端的に本件第一及び第二鉄塔の除去を命ずる執行命令を内容とする仮処分を発することもできるのであつて、この仮処分命令は執行における執行命令ではなく、申請の目的を達するに必要なものとして発せられた仮処分の内容をなすものであり、その緊急性と同法(旧法)第七三五条の趣旨との兼ね合いから、債務者の審尋を要しないものとして債務者審尋をせずに発せられる仮の地位を定める仮処分であつて、同法(旧法)第七三三条及び第七三五条に違反する違法なものということはできない。

2  仮処分手続の違法をいう点について

原告反対同盟は、本件仮処分手続が無審尋、無保証で発令された点に手続上の違法があると主張し、本件仮処分の債務者原告反対同盟の訴訟代理人らが昭和五二年四月二八日上申書を千葉地方裁判所に差し出し、慎重な審理と債務者側からの事情を十分聴取するよう申入れたこと、本件決定が口頭弁論も債務者審尋も一切なされることなく、保証も立てさせずに出されたものであることは当事者間に争いがないが、仮処分手続において債務者を審尋するか否か、仮処分命令の発令に際して債権者に保証をたてさせるかどうかは、裁判所の裁量にかかつており、前記認定のとおり、本件第一及び第二鉄塔の建築、留置が違法なものであつたことは明らかであつたから、本件仮処分が債務者審尋を経ることなく、また、債権者に保証を立てさせないで発せられたとしてもこれをもつて本件決定手続に違法があるということはできない。

四  そうだとすると、本件申請及び本件決定の違法を前提とする原告反対同盟の本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないということになる。

第三結論

よつて、原告らの本訴各請求はいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 篠原幾馬 円井義弘 小野洋一)

当事者目録 <略>

物件目録

(一) 千葉県山武郡芝山町岩山字金担一八八二番二所在

鉄塔 一基 高さ三〇・八二メートル

(二) 同町岩山字押堀一八九八番九所在

鉄塔 一基 高さ六二・二六メートル

(以上)

請求金員及び共有持分目録<略>

別表<略>

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